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ドイツのワインを飲みながら~クヴァストホフ、ケンプ、グルダを聴く [雑記]

職場。夕刻でのひと時であった。

ドイツ文学を専門とされているS先生にお招きいただいて、ワインをいただくことになった。

私は同期のドイツ文学の先生とともに足を運んだ。 

S先生「いや、本日は学期末の一段落したところで、kitaken先生の音楽講義を拝聴しようと思いまして、ワインをご用意してお待ちしておりました」

ここで、ドイツワインの10年物あたりが振る舞われた。

ドイツの白ワイン。初めて飲んだが、イタリアやフランスとは違った別の趣がある。

甘さが芳醇で、独特の香りがある。

kitaken「恐縮です。でも、私は講義なんてできませんよ(笑)先生のお話をお聴きしたいです。楽譜だって読みませんし、ただひたすら好きな音楽をCDで聴く、というだけのことです。S先生がお好きなドイツ・リートはフィッシャー・ディースカウで聴くことが多いですね」

S先生「フィッシャー・ディースカウですか。そこで(ドアの端にある棚を指さして)カビが生えているカセットテープの中にたくさんございますよ。私は何と言っても、クヴァストホフです」

先生はフィッシャー・ディースカウは小賢しいと思われている。

芸術というよりは、巧さに感じられてしまうのだという。

kitaken「クヴァストホフは、昔NHKで見ました。小澤政爾が(この人のCDは二枚しか持っていない)指揮する「マタイ受難曲」で、福音史家を歌っていた」

S先生「体の不自由な方でね、以前来日公演の際にはチケットを入手して、本当に楽しみにしていたのですが、キャンセルになって千載一遇の機会を失いました」

kitaken「そうでしたか。クヴァストホフはyoutubeなどでマスター・クラスの映像を見れますね」

S先生「学生のほとんどは注意されていましたが、中でも韓国かどこかアジアの学生のことは絶賛されていました」

youtubeを使って、クヴァストホフのマスター・クラスを鑑賞する。

クヴァストホフの低音のきいた暖かい声は、しっとりとした情緒がこもっている。

一緒に聴いた「辻音楽師」も見事だった。

kitaken「数年後には彼(若き学生)もCDを出すのでしょうね。。。クヴァストホフは先ほど引退を表明されましたが、まだ歌ってほしいのですがね。朗々とした声は確かに素晴らしいのですが、枯れてきた味わい、というのがあるんですよね」

S先生「そうですね。」 

ドイツリートについてあれこれと語り合い、ワインが進む。私はCDを用意して、グールドの「ゴールドベルク変奏曲」とケンプのベートーヴェン、「悲愴」「ワルトシュタイン」を流した。

S先生「ケンプは何か物足りないですね。抒情的な部分は美しいと思うのですが、これがベストという感じがしない」

kitaken「速い部分や激しい部分のタッチがもっさりとしていますね。ワルトシュタインの冒頭なんて、先生のお好きなグルダはいいですね」

S先生「ええ、私はフリードリヒ・グルダの演奏が大好きです。彼もこれからという時に亡くなりましたが、ベートーヴェンは本当にすばらしい。ワルトシュタインは、こう、楽想の描き分けがね、鮮やかで、テクニックが凄い」

kitaken「でも、ケンプという人はスタンダードだと思うのですよ。平均点以上のピアニスト。彼より巧い人はたくさんいる。そして彼よりすごい芸術家はいるかもしれない。でも、凡百の演奏を聴いた後で聴くと、「おっ、ケンプいいねえ」っていう印象を受ける。ケンプっていうのはいつでも規範になりうるピアニストだと思うのです」

S先生「そうですね。けして悪いピアニストではないですが」

kitaken「ポリーニはいかがですか」

S先生「ポリーニは嫌いです。あのピアニストは二度と聴きません。あの汚い音!」

kitaken「私はバックハウスが好きです。これぞ、ドイツっていうか、子音の発音のきつい質実剛健とした味があるんですよね」

S先生「鍵盤の師子王と呼ばれた方ですよね。私も持ってはいますが」

youtubeに50年代のバックハウスのものがあったので、ワルトシュタインをかけてみた。

一緒にいた同期の先生(クラシック音楽は全く聴かれない方)が「これ以外の演奏のほうがよかった」という。

私もこんな無骨で田舎くさい演奏だったかな?と思った。

kitaken「今聴いてみたら、(テクニックは)グルダのほうが良かったですね。でも、バックハウスはヘタウマなんじゃないですかね。バックハウスは主題掲示の後、大きくテンポを落として雄大に歌う。こういうところ、現代からするとスマートじゃないんだろうけど、スマートじゃないのがいいんだな」

S先生はワインを傾けながら、しばしバックハウスに耳を澄まされていた。 

先生との共通点は、音楽を「ただ楽しむ」という姿勢なのだが、演奏家の好みについてはやはり割れた。

ただ、ドイツの演奏家、ドイツの芸術家に対する愛情は同じだった。

ワインを飲みながらの音楽談義は、何とも美しいひと時だった。


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