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Tower Recordによる復刻、メンゲルベルクのベートーヴェン [ウィレム・メンゲルベルク (cond.)]


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私の父は、5、6年前にアルツハイマー型認知症になったが、介護の甲斐もあって穏やかな日々を過ごしてきた。しかし、昨年末、膀胱癌が見つかり
現在は肺に転移、右足の浮腫に苦しんでいる。看取りまで含めた療養病床への転院を考えているところだ。

正直、在宅での介護は、デイサービスを利用していても大変である。そういった精神的、身体的ストレスがあると、音楽にもまともに向き合えない。この数年、CDの数は増えても聴かないものもあり、どうすんのこれ?と呆然としている。

父の余命を聞いてから、脳裏に毎日鳴り響くのは、メンゲルベルクの指揮した「マタイ受難曲」、「憐れみたまえ、我が神よ」というアリアである。ナチスドイツによるオランダ侵攻前夜のライヴであり、すすり泣きや嗚咽が聴こえる曰く付きの記録だ。

バッハを研究されているある学者は、メンゲルベルク盤に対する批判的な言動でも知られるが、私も学者の端くれとしてあえてここで「学問研究と何が名演かは別次元である」と反論しておきたい。

作曲家の書いたスコアや当時の演奏スタイルを研究することは、とても意味のあることだ。しかし、それにより、芸術作品としての演奏記録の価値判断を行うことは、学者の傲慢である。音楽は正しいとか正しくないで聴くのではなく、楽しむもの、人類の大切な娯楽だからだ。

メンゲルベルクのベートーヴェンがタワレコから復刻された。40年代の録音で、モノラル、「エロイカ」を除いてライヴ。音質にはこれまで高域が詰まり気味で、録音年代からすると高音質でも、日常的に聴くにはややストレスがあった。

今回は、高域まで良く抜けていて、情報量もわずかに向上し、このオンリーワンの演奏記録の決定盤足り得ていると思う。

トスカニーニのような気迫のこもった迫力、不健康なくらい情緒を込めた緩徐楽章、楽譜を変えてまで新しい何かを見出そうとする芸術家らしいスタンス、19世紀ロマンの名残なのかもしれないが、好き嫌いを超えて永遠に遺されるべき宝だと思う。第9、第7、運命、聴いてみたが、ストレスない音質で楽しめた。

次はマタイを、SACDで!

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