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謎の多い第9 [ウィルヘルム・フルトヴェングラー (cond.)]

 BLOG(及びHP)を休止しておりましたが(本当は閉鎖するつもりでしたが)、自分のペースでもう少し続けてみようかと思います。

 というのも、音楽のことについてあれこれと考えたり、あれこれと話をするのがやはり好きだからです。

 更新は鈍牛のような速度かもわかりませんが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 さて、本日はフルトヴェングラーの第9、それも「もうひとつのバイロイト」と評されることもある、バイロイトでの1954年のライヴ録音を採り上げます。

1954BayreutherFurtwangler.jpg

 この録音は、Music & Artsからも発売されていますが、録音が劣悪なことが有名で、そもそも公式の録音は(フルトヴェングラー博士の強い要請により)存在せず、粗末なサウンドのプライヴェート音源が残存しているのみです。

 ヴォルフガング・ワーグナー氏は、この演奏をフルトヴェングラーの演奏史上でも最高のものと呼び、録音が残されていないことを悔やまれているし、吉田秀和氏もその著作のいくつかで回顧されています。

 正直、私にはわからなかった!

 ハーゲンが呪いの歌を歌っているようなウェーバーのバリトン、ポルタメントばかりのヴィントガッセンのテノール。エーデルマンやシェフラー、ホップやデルモータが懐かしくなった。

 さらに、ブロウェンスティンのソプラノも、シュワルツコップの気合の入った歌いっぷりには敵わないと思っております。

 日本フルトヴェングラー協会が「オリジナル音源を入手」と虚言(?←失礼!)を宣伝文句に書き、期待して聴いたものは数代目のコピーだった(会長により『音楽現代』誌上でその旨が書かれている)し、音圧を高めに設定し、迫力はあるものの、解消度・鮮度・情報量の点で従来盤と大きく変わるものではなかったように思われます。

 写真にあげたフルトヴェングラー・センターの復刻盤は、現存する最良のコピーを使ったと正直に告白した上で、非常に良好なサウンドを聴かせてくれた。

 演奏は、フルトヴェングラーの第9としては謎めいた内容だ。

 一楽章はテンポが遅く、力が抜け切った悟りの境地であることは今まで通りだが、何か枯れきった風情があって、ルツェルンの第9が健康的に感じられるほど。やはり、どこか魔力を感じる。

 再現部冒頭は打楽器の突出した録音のせいで、弦のフレーズがほとんど聴こえないアンバランスさだが、不思議に抵抗を感じない。

 二楽章も勢いに欠ける。というよりも、無理にドラマを盛り立てるということにはもはや関心がないような指揮ぶり。

 ドリーム・ライフの第9もそうでしたが、アンサンブルをきっちりと調えた上で、理性的な演奏を心がけている感がある。ただ、楽章終結に打楽器を一発加えているのは、この盤だけの現象なのでしょうか(←ご教示ください)。なくもがな、と思うのは私だけ?

 三楽章はひたすら沈潜していくような演奏で、花園や天界へ分け入っていくような解釈ではなく、生死の境を彷徨うような、何か霞を食べているかのような印象を受ける。録音が悪いから、というのではなく、何かこの世ならぬ演奏なのだ。

 それが感動的かどうかは理解に苦しむところで、第9のアダージョはこのような痛ましさを伴うものなのかどうか、それを受け容れることができるかどうかが、この演奏を楽しむポイントとなるでしょう。

 個人的には聴くのが辛かった。

 四楽章も打楽器の迫力は凄いが、テンポはずっしりと踏みしめるように重く、合唱団が入っても、落ち着いたテンポに変化はない。

 気力がないのか、覇気がないのかはわからない。これがフルトヴェングラーの一つの解釈なのであろう。ゆったりとしたテンポの裏にも、何か巨大なものが隠されているようで、深遠さを感じる。

 4人のソリストの出来がもっと良ければ、演奏自体の感銘はもっと深まったに違いない。ヴィントガッセンは美声だけれども、よく聴けば、ひどい歌い方。このような崇高な曲には不釣合いだろう。

 あの過激なコーダも、猛烈な加速というのではなく、すべての楽器が混合し、一つに収斂していくような不思議な錯覚を覚える。これがベートーヴェンの言いたかったことなのだろうか。

 個人的には、謎の多い演奏。この演奏の正体がつかめるような良好な音源が見つかれば、フルトヴェングラー研究にも大きな意味を持つことだろう。


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のんちゃんNJ

キタケン先生
ブログ再開おめでとうございます。先生が休止されて密かなファンだった私も大変なショックを受けました。心無い批判など直近のコメントに心痛められたのかと心配でした。でも再開されて良かった。今後もペースは気にされず、是非お続け下さい。一ファンより
by のんちゃんNJ (2009-06-08 20:19) 

kitaken

のんちゃんNJ様

あたたかいコメントをありがとうございます。

「先生」とお呼びいただくような人間では全然ありませんので、どうかkitakenのままでよろしくお願い申し上げます(汗)。

休止中、大変ご心配をおかけしました。理由は、仕事が忙しくなったことと、記事を書いていて一抹の虚しさを感じたためでした。

ですが、音楽について思考することの楽しさを改めて痛感している次第です。

このような小さなBLOGにも足を運んでくださり、恐悦です。

今後ともどうかよろしくお願い申し上げます。
by kitaken (2009-06-09 00:30) 

のんちゃんNJ

キタケン先生
早速のご返事有難う御座います。 気力のご回復おめでとう御座います。 先生の愛聴盤は私も少しずつ参考にさせて頂いておりまして、少しずつ集めている最中です。以前のコメントや年度のベスト盤等も大変参考になり、私にとってどの評論家より頼りになります。無神経なコメント等に煩わされず、今後もキタケン先生独自の感覚で是非お続け下さるようお願いします。
by のんちゃんNJ (2009-06-09 19:43) 

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