ベートーヴェンの「荘厳ミサ曲」名盤探訪③:クーベリック [ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス]
昔からラファエル・クーベリックが苦手である。
DGには9つのオーケストラを使ったベートーヴェンの交響曲全集、それにバイエルン放送響とのマーラーの交響曲全集があるが、どちらもどこが良いのかさっぱりわからない。
スラヴ系の演奏家は、ベートーヴェンを演奏するとき、西欧系の演奏家とは異なる独特の節回しやリズムがある。
クーベリックも同じ。別にそれが悪いわけではないのだが、クーベリックの場合はその訛りが強く、挙句の果てに打楽器を抑えて、全体のバランスに気を使うので、ことさらにユニークさが際立つことがある。
けして悪い指揮者ではないと思うのだが、今のところ、「これだ!」という名盤には出会えていない。Auditeから出た「クーベリックはライヴの男」を裏付けるというマーラーも、どこが良いのかさっぱりだった。
写真は、ミサ・ソレムニス。1977年のライヴ録音である。
Orfeoの相変わらずの画一的なマスタリングで、低域が薄く、音色感のない無味乾燥した音作りが玉に瑕だが、演奏自体は素晴らしいと言える。
クーベリックを正直見直した。
キリエの冒頭、荘重な雰囲気の中に、突然、「キリエ!」と訴えかけるコーラスの真実の祈り。グローリアのスピード感。静謐な空間に突如響く金管の圧倒的な威圧感。とにもかくにも、合唱が上手い。歌心があるというのか、歌詞も的確に聴き取ることができるし、とにかくオーケストラよりも存在感がある。クレドも同じだ。
ただし、ここはこうあるべきだ、という部分で、金管や打楽器がきかず、弦主体のバランスにしてしまうのは惜しいと思う。グローリアの終結、クレドの「我、来世の生命を待ち望む」の辺りの盛り上がりなど。
アニュス・ディのトランペットのファンファーレでは、打楽器がきかず、やはり拍子抜け。うーむ。全体に熱い演奏なだけに、決め所に欠けるのが惜しい。惜しすぎる。
歌手は、ファスベンダーがやや大根だが(キリエ冒頭での独唱はちょっと音程が・・・)、ほかは粒揃い。特に、ペーター・シュライヤーは史上最高に上手いテノールだ。ちょっとした間などにも迫真の気合が漲っており、ブンダーリヒも遠く及ばぬ境地だと身震いした。
クーベリック/バイエルン放送響 ★★★★☆(シュライヤーと合唱が素晴らしいので)
コメント 0