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フルトヴェングラー/RIAS全録音集成 (Audite) [ウィルヘルム・フルトヴェングラー (cond.)]

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 物凄いセットが登場した。

 フルトヴェングラーとベルリン・フィルによる戦後の名ライヴは、ファンならずとも、一般の愛好家にとっても垂涎のものと思われるが、それらのうち、ベルリンRIAS放送局に残されていた音源が全てCDに復刻される運びとなった。

 EMIやDGなども、これらの音源のいくつかを使用してLPやCDを作成していたわけだけれども、このようにダイレクトにマスターにアクセスしたことは近年の快挙といえる。

 愛好家にとって一番の関心は音質である。

 Auditeのリマスタリングは、コルトーとフリッチャイのシューマン(audite 95.489)でも経験していたが、ノイズ・リダクションやら、ピッチ修正やら、フィルタリングともいえる作業を行なうために、音色は人工的になり、均質感のあるモノ・トーンな印象になる。極端に言えば、鉛色の塊が飛び出してくるような感じだ。

 しかしながら、何十年も前の音源を、現代人にも聴きやすいように、そしてできるだけ鮮明で情報量多く、ということであれば、ある程度の「覚悟」は否めない。覚悟とは、ある程度の音色や臨場感を犠牲にしても、万人に納得のいくリマスタリングを行なうということである。

 その意味では、TAHRAやMUSIC AND ARTSのリマスタリングは万全ではなかったのかもしれない。前者は金属的かつメタリックな音がフルトヴェングラーではなかったし、後者はスケールが小さくなり、全体としてのっぺりとしたニュアンスに乏しい音になりがちだったからだ。 

 Auditeのリマスタリングはその意味で中庸である。リマスタリングという行為自体の賛否については私はノー・コメントとしたい。人によって、オーディオによって評価は変わるし、リマスタリングの全てが悪だとは思わないからである。

 結果として、この集成は、価格が手ごろであるだけでなく、「一貫した」信念に基づいてリマスタリングが行なわれており、全体として商品としてのクォリティーは極めて高いものだと言える。

 たとえば、戦後復帰ライヴの「運命」と、54年の最後の「運命」を聴き比べれば、そのリアルで、前面に飛び出してくるような迫力、音の情報量と密度の濃さに圧倒される。ノイズ・リダクションによって一瞬だが、ドロップ・アウトのように不自然な途切れが散見される(終楽章コーダ付近)が、これは仕方がないのかもしれない。

 ブラームスの交響曲第3番は49年のものと、54年のものの両方が収められているが、いずれも劣らぬ音質の「鮮明さ」である。特に前者はEMIから出ていた国内盤を聴いたとき、「なんちゅー、劣悪な音質だ!」といらいらしながら聴いたことを覚えていただけに、その直接的な迫力とリアルさに一瞬驚いたことを告白する。

 52年12月8日の「エロイカ」。これはArkadia盤を聴いていないから何とも言えないが、妙に硬質の音でもなく、妙に雑然とした汚い音でもない。柔らか味があって、人間が奏していることがわかるリマスタリングとなっている。TAHRAとは少なからず雲泥の差と言って良いかもしれない。その分、どこか軽い演奏に聴こえないこともないかもしれない。インパクトという面では後退が見られるからである。

 私はこのセットを手に入れて聴き薦めているうちに、「これくらいの音質で、しかも6000円台で、RIASの全録音が耳にできるのであれば、お釣りがくるアイテムだろう」と深い感銘を覚えた。

 しかしながら、同時に、もし、Auditeが「音質は何もいじりませんでした。ピッチの修正だけはしましたが、ノイズはそのままです。だって、放送録音だから当たり前でしょ?」というスタンスでこれらのセットを作っていたら、おそらく驚愕するほど感動しただろうに、と思うのであった。

 フルトヴェングラーの演奏の一番凄いところは、その臨場感にあるのだから。それはノイズ・リダクションされた音からは絶対に復元されない。それだけは確信できる。

 しかし、ノイズ・リダクションされずにこれだけのセットが登場する確率は極めて低いだろう。

 だから、満足するべきなのだ。

 要は、リマスタリングをフィルタリングすれば良い。自分の耳で。少なくとも私は、会場でどう聴こえていたかを想像しながら聴くことができるCDだった。その意味では満足している。


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