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Deltaによる「第二世代復刻」のエロイカ [ウィルヘルム・フルトヴェングラー (cond.)]

FurtwanglerBeethoven3Delta.jpg

 一楽章から二楽章までは、最高の一言である。

 初期LPで聴く、巨匠1952年のスタジオ録音「エロイカ」がこれほどまでに純粋な演奏だったとは!

 今まで聴いていたのは何だったのだろう。もちろん、CDにするとデジタル臭が増し、本当のLPの味わいは消し飛んでいるのだろうが・・・。

 一楽章冒頭。精神の音しか感じさせない例の二発の爆発が、ウィーンの森に木霊するような幽玄の響きさえ感じさせる。

 弦の柔らかでいて、絹織物のような繊細な音。高音は香炉がたなびくように、上へ上へと抜けていく。主題掲示。盛り上がっても音はけして濁らない。

 高低の分離、楽器の分離が生々しく、一瞬細身に感じられるかもしれないが、余分な着色が一切ないのだ。

 清らかな泉がこんこんと湧き出てくるような輝きと言ったら良いのだろうか。何とも形容し難い美しい輝きがあり、そこに管楽器奏者たちの名人芸が繰り広げられる。

 どこまでも澄み切り、透明感さえ感じさせる。フルトヴェングラーの芸術は全開していることを実感させる。

 フルトヴェングラーは楽しくて仕方なかっただろう。ウィーン・フィルの無上、夢に聴くようなアンサンブルを前に、タクトを振りながらも、嬉しそうに聴き入っている姿さえ夢想する。

 打楽器はだぶつかず、すとんと下に抜けていく。細かい走句の何気ない一瞬に、万感の思いを聴くようですらある。

 装置によっては、高音が良く出るのできんきんする嫌いもあるかもしれないが、たとえばコーダのエレガントな弦のひらめきなどはムジークフェラインの夢のような残響と相まって真に美しい。

 二楽章も同じことが言える。弦の表情、ニュアンスの多彩さが、より如実に味わうことができる。意味深い低弦のうねり、盛り上がりでの有機的な響きなどはフルトヴェングラー芸術の一つの頂点だろう。

 抑制されたドラマから、かえって深遠なものを予感させるという、形而上的な演奏を展開している。

 スケルツォの冒頭、例の英雄の心のざわめきを伝えるような弦の刻みが、人間が弾いていることがはっきりとわかるほどに臨場感がある。盛り上がりでは、いささか音が荒くなってくるが、LP板起こしの限界。これは諦めるしかあるまい。

 トリオのホルンはまろやかで、本当に美しい。ベルリン・フィルとの演奏ではこうはいかない。詩情がないと言ったら失礼だろうか。ウィーン・フィルのは水彩画であって、ベルリン・フィルのは油絵である。 

 終楽章は音が悪くなる。濁るとまではいかないが、音の抜けが良くない。前楽章までと比べて、音の輪郭がぼやけ、弦の繊細さに欠ける。そして、擦れるようなノイズによる音の荒れが気になるようになってくる(もっとも、これはヘッドフォンで試聴するからである。どうしても除去しきれなかったノイズが耳につくわけだ。スピーカーで再生するならば、すっきりと聴くことができる)

 それでも臨場感は抜群だし、数々のCDで聴かれた「ポコっ」という異音もない。ハーモニーはただひたぶるに美しく、虹色を基調として、夢幻に煌く。

 コーダ。ホルンがオン・マイクでバランスが悪いことがはっきりとわかる。音空間が窮屈に感じられる。それでも音を割ったホルンの強奏は聴く者をわくわくさせ、胸を熱くさせる。

 良い音楽を聴いたという思いで満たされた。このような演奏を聴けることは、幸せなことである。

 このCDは、初期LP(ドイツ盤)からの板起こしであるが、ノイズを手作業で除去しているため、ノイズ少なく音楽を楽しむことができる。それに、完全なモノラルであり、擬似ステレオなどによってふやけた音になっていないことが大きい。

 しかしながら、最初期CDであるCC30シリーズの「エロイカ」も、センスある仕事であることがよくわかった。

 デジタル処理をした人物は相当に耳の確かな人間であり、Deltaを聴いた後に、聴き比べをしても抵抗感がなく、終楽章はむしろデジタル・リマスターのほうが聴きやすいと感じた(ヘッドフォンで聴く場合)。特に、コーダの分離が良く、オン・マイク気味のホルンとも違和感がない。ポコ音がなく、これにDelta盤に聴く極上の詩情があれば、完璧だったのだが。

 トータルではDelta盤が今後のスタンダードになるだろう。特に一楽章から二楽章にかけては絶品である。しかしながら、(ヘッドフォンで聴く場合)終楽章に関しては今だに東芝EMI初期CDが手放せない。


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